「やりたい仕事がない」のは当たり前

わたしが子どもの頃、「なぜ勉強するの?」と大人に質問したときに、「将来の選択肢を増やすため」とか、「いい会社に入るため」とか、いろいろな答えが返ってきました。

実際に大学を卒業して就職活動したときにわかったことは「受験勉強を頑張って大学を卒業しても「やりたい仕事が見つかるわけではない」という当たり前のことでした。

わたしの場合、大前研一に憧れて戦略コンサルタントになったわけですが、戦略コンサルタントになって死ぬほど働いてわかったことは、「はじめての職業が一生涯の職業になるとは限らない」という当たり前のことでした。

そもそもなぜ、『やりたい仕事』が見つからないのでしょうか?

やりたい仕事が見つからない最大の理由

「やりたい仕事が見つからない」理由を調べてみると、某転職サイトには「自己分析が足りないから」、「職種や業種に関する知識が足りないから」、「給与や休みなどの条件を重視しがち」といった理由が列挙されていました。

ようするに「あなたの努力や知識が足りない」という主張をしているわけですが、「やりたい仕事が見つからない」本当の原因は別のところにあります。「やりたい仕事が見つからない」のは、なぜでしょうか?

理由なシンプルに「仕事は、他人の問題をお得に解決するものだから」です。

大谷翔平選手の銀行口座から、通訳の水原一平氏がお金を盗んでいた事件が発覚した時に、大谷翔平選手の同僚「タイラー・グラスノー」投手は、こんな発言をしていました。

アスリートのほとんどは自分の口座をいちいちチェックしたりしないんだよ。「資産管理チームに全部任せてある」って感じさ。どのスポーツでもね。みんな面倒なことはやりたくないんだよ。だから信頼できる人間を見つけなきゃいけない。

スポニチ

みんな面倒なことはやりたくありません。「マクドナルドのハンバーガーを食べるために行列に並びたくない」という問題があるからこそ、出前館やUberEatsというデリバリーの仕事があるのです。

さらに付け加えるのであれば、お金を支払う側の人たちが、問題を自分で解決するよりも「お金を払った方がマシ」と考えるからこそビジネスが成立します。

つまりあらゆる仕事は「他人の問題」を解決するために存在し、なおかつ「お得」(自分でやるよりはお金を払ったほうがいい)だからこそ成立しているわけです。

ようするに「あなたのために仕事があるのではない」のです。それが「やりたい仕事が見つからない」最大の理由です。しかし他にも原因があるのです。

やりたい仕事が見つかりにくい理由

「やりたい仕事が見つからない」という問題意識は、明治の頃からありました。夏目漱石は、明治44年(1911年)に行われた講演で、以下のように語っています。

日本に今職業が何種類あって、それが昔に比べてどのくらいの数に殖(ふ)えているかということを知っている人は、恐らく無いだろうと思う。現今の世の中では職業の数は煩雑になっている

私はかつて大学に職業学という講座を設けてはどうかということを考えたことがある。(中略)

何故だというと、多くの学生が大学を出る。最高頭の教育の府を出る。勿論天下の秀才が出るものと仮定しまして、そうしてその秀才が出てから何をしているかというと、何か糊口の口がないか何か生活の手蔓はないかと朝から晩まで探して歩いている。(中略)

その秀才が夢中に奔走して、汗をダラダラ垂らしながら捜しているにもかかわらず、いわゆる職業というものが余り無いようです。(中略)

余りどころかなかなか無い。いま言う通り天下に職業の種目が何百種何千種あるか分からないくらい分布配列されているにかかわらず、どこへでも融通が利くべきはずの秀才が懸命に駆け廻っているにもかかわらず、自分の生命を託すべき職業がなかなか無い

道楽と職業

夏目漱石は「世の中にたくさんの職業があるのに、職業が見つからない」という問題意識を語っているわけですが、むしろ「世の中にたくさんの職業があること」が、職業が見つからない原因になっているのだと思います。

たとえばスマートフォンの機種を購入するときに、選択肢がたくさんあればあるほど「どれにしようかな?」と悩んでしまいます。しかし予算の都合で、選択肢が1つか2つしかないとなれば、それほど悩む必要はありません。

職業も同様だと思うのです。江戸時代には「職業選択の自由」なんてものはありませんでした。明治時代になってから「個人」(individual)という概念が日本に輸入されて、家業を継ぐ以外の選択肢が珍しいものではなくなったからこそ、「自分の生命を託すべき職業がなかなか無い」という悩みが生まれたのです。

ようするに「自分の生命を託すべき職業がなかなか無い」という悩みの背景にあるのは「近代化」です。そして近代化は、資本主義の要請によって生まれました。

ですから資本主義について理解することが「やりたい仕事が見つからない」という悩みを理解することにつながります。

簡単に説明します。

資本主義とは、「資本を増やし続ける運動」のことです。資本を増やし続けるためには、仕事を効率化する必要があり、効率化するためには分業化が必要不可欠です。

夏目漱石が生きた時代ですら「天下に職業の種目が何百種何千種あるか分からない」という状態だったのですが、現在における職業の数は、より煩雑になっています。

ですから・・・・・いくら自己分析したところで、職種や業種に関する知識をインプットしたところで限界があるし、そもそも職業なんてものは「やってみないとわからない」というのが実情なのではないでしょうか?

結論。「やりたい仕事が見つからないのは当たり前」